小林 淳
このたび、日本野蚕学会の会長に就任することになりました。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
創立以来、赤井前会長を中心とした体制で発展してきた本学会の会長職を務めさせていただくことは私にとって大変光栄なことでありますが、受け取ったバトンの重さを痛感しているところでもあります。副会長ならびに役員、事務局の方々の協力を得て全力を尽くす決意でおります。会員の皆様のご支援を心からお願いいたします。
さて、今後の学会の運営に関してですが、「継承」と「発展」という二つの基本方針を掲げ、野蚕および野蚕糸に関心や興味を持つ多様な人々が所属し、 幅広い活動と交流を行ってきた本学会のユニークな特色を、引き続き維持し、将来に向けて発展させていきたいと考えております。すでに学会のホームページ、会報および学会誌については、担当者を中心にリニューアルおよび内容の充実などが検討されており、会員の皆さまの活動や学術的成果に関する情報発信の強化と高品質化を通じて、これまで以上に会員の相互理解と国内外での学会の認知度を高めていこうと準備しているところです。また、大会の開催については、コロナ禍により昨年度は中止になり、本年度もなかなか終息の気配が見えない状況のため、本会報でご案内の通り、オンライン方式で開催することとしました。会員の皆様には、ふるってご参加いただきたいと思います。そして、来年度には、事態が好転することを期待して、学術研究の成果発表、シンポジウム、野蚕糸製品などの展示、現地見学を組み合わせたこれまでのスタイルの大会を再開し、異なる分野で活動されている会員の皆さまが集い、野蚕についての学びを深め、交流の輪を広げるための場所を提供しようと計画しております。 国際学会についても、開催が可能な状況になった段階で、海外の野蚕関係者との交流再開を祝う記念大会を計画できればと願っております。
さらに、本学会の将来を考えると、現在の会員の皆様にとって有意義な学会であり続けることが重要であることは言うまでもありませんが、新規会員の加入も重要です。若手研究者や学生の学会発表や学会誌での論文発表に対して、奨励賞や論文賞を設けるなど、学会を担う次世代会員を増やす取組みを積極的に進めたいと思います。また、これまであまり交流のなかった異分野からの新規会員獲得の努力も必要であり、そのためにはホームページに加えてSNSによる野蚕および野蚕糸の魅力についての情報発信も有効と思われます。他にもいろいろな方策を講じて新入会員を増やしていけば、現会員との交流 による学会の活性化や新たな可能性の発見につながると期待され、それこそが本学会を「継承」・「発展」させていく原動力になると考えております。
最後になりましたが、赤井前会長には心から敬意を表し、今後のご健勝を祈念いたしますとともに、会員の皆様には引き続き本学会の活動にご理解とご支援賜りますよう重ねてお願いして、就任の挨拶といたします。
赤井 弘
日本野蚕学会開設以来、長年に渡って会長の任に当たって参りましたが、高齢となり、最近は体調を崩すことも多く、会長の職を退任させていただきます。
この間、私の繭糸の構造の研究の中で、1989年に天蚕とサクサンの繭糸断面の電顕による観察から、これら両者とも繭糸のフィブロインの中に多数の大小の小孔が観察され、詳細に学会誌に報告しました。これらの結果から、繭糸はフィブロイン中に多数の小孔を含む“ 多孔性繭糸 ”と、含有しない “ 緻密性繭糸 ”が存在することが明らかになりました。さらに、その後の観察から前者内の小孔は後部糸腺細胞のリソソームに由来することが判明しました。さらに、多孔性繭糸はヤママユガ科に属する昆虫からしか生成されず、他の昆虫はすべて緻密性繭糸であることも明らかになりました。繭糸の切片から繭糸中の空間率を計算すると種間で大きく異なりますが、高いものではアゲマ・ミトレイの27 が最も高く、クリキュラでは20~23程度でありました。このような高い空間率のシルクは布にすれば暖かく、高齢者や乳幼児などには保温性などから健康衣料として今後広く必用とされるものと考えられます。
地球上には上述の巨大なアゲマ・ミトレイのような健康シルク資源が未開発で残されているものと思われます。これらから健康衣料を作り、着用試験をしたいものです。シルクは美しい高級な衣料だけではなく、最も健康な天然素材であることを知っていただき、同時に広く着用していただきたいと思います。
会員の皆様方にはたいへんお世話になり厚く御礼申し上げます。皆様のご盛栄を願うとともに、本学会の益々の発展のためにご支援いただければ幸いです。
当学会は、地球上の多種多様な絹糸昆虫を未開発資源と位置づけ、多様なシルクタンパク質の利活用に関する基礎的および応用研究、さらにシルクの繊維利用ならびに非繊維利用を進め、途上国を含めた環境保全産業の育成を目的として、1986年(昭和61年)に野蚕研究会として設立されました。
下記、 「野蚕研究会・日本野蚕学会の歩み」に示すような経過で、研究会、大会を開催し、論文誌(International Journal of Wild Silkmoth and Silk)および日本野蚕学会報(野蚕 Wild Silkworm News)を刊行してまいりました。 1989年から1993年の期間に、つくば科学万博記念財団から助成を受け事業内容を充実させ、1993年には日本学術会議の学術団体として認定されました。
論文誌として、「International Journal of Wild Silkmoth and Silk」を刊行し、野蚕を中心とする絹糸昆虫(昆虫以外の生物も可)やそのシルクに関する研究論文等を編集委員会による査読を経て掲載しております。英文を原則としますが、和文も掲載します。積極的な投稿をお待ちしております。
論文誌のほかに会報として、「野蚕 Wild Silkworm News」を年3回発行しております。全ページ和文で、最近の研究、技術開発、学会の研究開発、野蚕繭の利用、その他、広汎な記事が掲載されております。投稿も歓迎いたします。
1986年 野蚕研究会設立 (農水省蚕試、つくば)
1986年 4月 第1回 野蚕研究討論会 (京工繊大、京都)
1987年 4月 第2回 野蚕研究討論会 (農水省蚕試、つくば)
1988年 4月 第3回 野蚕研究討論会 (名大農、名古屋)
1989年 4月 第4回 野蚕研究会総会 (農工大,府中)
1990年 4月 第5回 野蚕研究会総会 (信大、上田)
1991年 4月 第6回 野蚕研究会総会 (東農大、東京)
1992年 4月 第7回 野蚕研究会総会 (九大農、福岡)
1993年 4月 第8回 野蚕研究会総会 (宇大農、宇都宮)
1993年 9月 日本学術会議の学術研究団体への登録
1994年 4月 第9回 野蚕研究会総会 (北大農、札幌)
1994年 9月 日本野蚕学会と改名
1995年 4月 第1回 日本野蚕学会大会 (東農大、東京)
1996年 4月 第2回 日本野蚕学会対会 (東農大、東京)
1996年 11月 日本野蚕学会 野蚕研究会
10周年記念特別研究会 (赤坂区民センター、東京)
1997年 4月 第3回 日本野蚕学会大会 (東農大、東京)
1998年 3月 第4回 日本野蚕学会大会 (国際基督教大、三鷹)
1999年 4月 第5回 日本野蚕学会大会 (赤坂区民センター、東京)
2000年 6月 第6回 日本野蚕学会大会 (信大繊、上田)
2001年 4月 第7回 日本野蚕学会大会 (東農大、厚木)
2002年 6月 第8回 日本野蚕学会大会 (農工大、府中)
2003年 4月 第9回 日本野蚕学会大会 (京工繊大、京都)
2003年 7月 日本野蚕学会研究会 (四万、群馬)
2004年 6月 第10回 日本野蚕学会大会 (福島農試、福島市)
2005年 6月 第11回 日本野蚕学会大会 (県民センター、横浜)
2006年 6月 第12回 日本野蚕学会大会 (東農大、東京)
2007年 6月 第13回 日本野蚕学会大会 (農生研、つくば)
2008年 6月 第14回 日本野蚕学会大会 (蚕研、東京)
2009年 6月 第15回 日本野蚕学会大会 (富岡、群馬)
2010年 9月 第16回 日本野蚕学会大会 (東農大、世田谷)
2011年 9月 第17回 日本野蚕学会大会 (京工繊大、京都)
2012年 9月 第18回 日本野蚕学会大会 (つくばセンター、つくば)
2013年 11月 第19回 日本野蚕学会大会 (農工大、小金井)
2014年 11月 第20回 日本野蚕学会大会 (長野県、岡谷)
1986年~ 日本野蚕学会報(野蚕 Wild Silkworm News)1~82号(2022)
1994年~ International Journal of Wild Silkmoth and Silk 1~22
一方、1988年にカナダのバンクーバーで開催された国際昆虫学会の中の野蚕シンポジウムで、国際野蚕学会の設立が提案さ れ、別紙「国際野蚕学会の歩み」のような経過で研究および技術交流が活発化してきました。参加国は別紙のように20カ国ほどで増加の傾向にあります。東南アジアやアフリカを中心に自国に野生のシルク地場産業を育成したいとの意向が増加し、日本のシルクの研究と技術が役立っています。
1988年 国際野蚕学会設立 (バンクーバー、カナダ)
1988年 第1回国際野蚕シンポジウム開催 (バンクーバー、カナダ)
1990年 第1回国際野蚕学会議開催 (沈陽、中国)
1992年 第2回国際野蚕シンポジウム開催 (北京、中国)
1994年 第2回国際野蚕学会議開催 (穂高,長野、日本)
1996年 第3回国際野蚕シンポジウム開催 (フローレンス、イタリア)
1997年 第4回国際野蚕シンポジウム開催 (台中、台湾、ROC)
1998年 第3回国際野蚕学会議開催 (ブバネシュワル、インド)
2000年 第5回国際野蚕シンポジウム開催 (イグワス、ブラジル)
2001年 第6回国際野蚕シンポジウム開催 (クアラルンプール、マレーシア)
2002年 第4回国際野蚕学会議開催 (ジョグジャカルタ、インドネシア)
2004年 第7回国際野蚕シンポジウム開催 (ワークショップ)(コンケーン、タイ)
2008年 第5回国際野蚕学会議開催 (沈陽、中国)
2010年 第6回国際野蚕学会議開催 (東京、日本)
2012年 第7回国際野蚕学会議開催 (マハサラカム、タイ)
2016年 第8回国際野蚕シンポジウム開催 (オーランド、アメリカ)
2018年 第8回国際野蚕学会議開催 (グヮハチ、インド)
日本、中国、インド、インドネシア、韓国、台湾、ベトナム、ラオス、ケニヤ、ナミビア、チェコ、アメリカ、ペルー、タイ、イギリス、マレーシア、ベトナム、ボツワナ、ネパール、フィリピン,ラオス